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最高裁判所第一小法廷 昭和39年(オ)550号 判決 1966年6月09日

上告人

日本通運株式会社

右代表者

安座上真

右支配人

徳弘文治

右訴訟代理人

土家健太郎

被上告人

川内谷五郎

玉川タマ

玉川晶英

玉川光晶

玉川英勝

玉川英峰

玉川泰

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人土家健太郎の上告理由について。

本件船舶が総屯数二〇屯未満の不登記船舶である旨の原審の認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。しかして、論旨はまず原判決が被上告人川内谷の右船舶の所有権取得を認めたのは、民法一九二条にいう無過失の解釈を誤つたものであると主張するので、この点を判断する。

思うに、右法条にいう「過失なきとき」とは、物の譲渡人である占有者が権利者たる外観を有しているため、その譲受人が譲渡人にこの外観に対応する権利があるものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のないことを意味するものであるが、およそ占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定される以上(民法一八八条)、譲受人たる占有取得者が右のように信ずるについては過失のないものと推定され、占有取得者自身において過失のないことを立証することを要しないものと解すべきである。しかして、このように解することは、動産流通の保護に適合する所以であり、これに反する見解に立つ判例(大審院明治四一年(オ)第三三一号、同年九月一日判決、民録一四輯八七六頁)は改むべきものである。

今叙上の見地に立つて本件を見るに、原審の認定したところによれば、訴外船田が右船舶を競落したものの右競売手続には瑕疵があつたため、該船舶の所有権を取得しなかつたところ、執行吏によつて船舶の競売手続がなされるような場合、船舶の所有権が競落人に移転するものと信ずるのは通常であるから、右船田から右船舶を買い受けた被上告人川内谷において、船田が船舶の所有権を取得せずして無権利者であつたことを知らなかつたことにつき過失ありとは認められないのであつて、原判示の無過失であつた云々の措辞は必ずししも妥当ではないが、原判決は前記当裁判所の見解に照らし、結局正当である。しかして、その余の点についても、原判決には何等所論の違法はなく、論旨はすべて採用に値しない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎)

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